矢萩多聞さんがつくる「はたらく」シリーズは毎回いつも楽しみにしている。

ぼくは働く大人を見て育っていない。いやもちろん父は学校の教員として真面目に働いていたし、だいたいの大人が働いていることを知ってはいる。昔は街を歩けば学校の友達のお父さんがトンテンカンとなにかを作っていたり、お母さんが練り物をねっていたりと、働く場所が近接していたはずだ。いつしか暮らしと職場が離れて、ぼくが小さい頃にはとっくにそういう風景はほとんど消えてしまって、自分の両親や親戚、近所の大人たちがどんな仕事をしているのか知る由もない。一方で、旅先で、例えばインドの雑踏を歩いていると、この人は何を生業にしているかすぐわかる。鍵屋さん、バナナ屋さん、印刷屋さん。背景にはいろいろあるのを想像するけど、生業が見えるか見えないかで、生活の豊かさはだいぶ違ってくる。ぼくの生活が誰によって成り立っているかがはっきりするからだ。

今回の「はたらく」写真絵本は、矢萩多聞さんとの共通の友人である、製本会社につとめる笠井瑠美子さん。製本はとにかく手を動かすから、彼女の手はけっこうたくましい。ときどき、絆創膏を入っていたりする(たしか)し、腱鞘炎になって痛そうにしている。手際よく本を綴るのが仕事で、ぼくは彼女の所作を見るのが好きだ。それが写真家・吉田亮人さんによる写真と多聞さんの言葉による写真絵本になった。

「機械がやってくれることもおおいけれど 調整したり なだめたり ちゃんとできているか みるのは いつも人間の仕事です」

そうそう、製本所は人間が機械と一緒にはたらく場所だ。本を好きなら、一度ぜひ行ってみてほしい。



『はたらく 製本所』(ambooks)の刊行を記念して、本書にも登場する製本所・松岳社の笠井瑠美子さんと、版元のambooksの主宰で画家・装丁家の矢萩多聞さんとをお招きしてトークイベントを開催します。

写真絵本「はたらく」シリーズについて

「将来、なにになりたい?」
と大人は子どもになにげなく質問します。返答はさまざま、時代のうつりかわりとともに人気の職業があるようです。しかし、サッカー選手でも花屋でも、まったくおなじようにはたらき、暮らしている人はひとりもいません。ぼくらの生活は、だれかの仕事のおかげで成り立っているはずなのに、彼らが日々どんなことを思い、喜び、悲しみ、暮らしているのかあまり知りません。ふと足をとめて星空を見上げるように、目の前を通り過ぎるいろんな「はたらく」を見つめたい。大人も子どももおなじ地平に立って、はたらくってなんだろう、と考えるきっかけになったらいいな。そんな思いのもと、写真絵本「はたらく」シリーズをつくりました。

○トークイベント概要

  • 日時 2023年5月7日(日)14:00開場、14:15開始〜16:00終了予定
  • 会場 本屋の二階(本屋・生活綴方向かい・石堂書店2F)
  • 主催 本屋・生活綴方
  • 協力 三輪舎

○オンライン配信について

  • オンライン配信チケットだけでなく現地参加チケットをお買い上げいただいた方みなさまにご利用いただけます。
  • Youtubeの限定公開用URLを当日開催までに配信いたします(Peatix内ではご視聴いただけませんのでご注意ください)。
  • 開場後14:00ごろから配信を開始いたします。
  • 1ヶ月間の見逃し配信付きです。
  • 6月6日終日までお楽しみいただけます。

○プロフィール
笠井瑠美子 Rumiko Kasai
1980年生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、株式会社東京印書館に入社。製版部、管理部門を経て退職後、デザイン制作会社に勤務する傍ら、手製本工房まるみず組で手製本を習う。加藤製本を経て、現在は松岳社に勤務。文芸や人文書などの上製本を主に手がける。また、出版レーベル「十七時退勤社」の副社長として、『日日是製本(2019〜2021)』『製本と編集者』を執筆・刊行。

矢萩多聞 Yahagi Tamon
画家・装丁家。1980年横浜生まれ。9歳から毎年インド・ネパールを旅し、中学1年で学校を辞め、ペン画を描きはじめる。95年から南インドと日本を半年ごとに往復、横浜や東京で展覧会を開催。2002年、『インド・まるごと多聞典』(春風社)の出版をきっかけにして本のデザインにかかわるようになり、これまでに600冊を超える本を手がける。2012年、京都に移住。出版レーベルAmbooksをたちあげたり、「本とこラジオ」パーソナリティをつとめたり、本とその周辺をゆかいにするべく活動している。著書に『美しいってなんだろう?』(世界思想社)、『本の縁側』(春風社)、『たもんのインドだもん』(ミシマ社)、 共著に『タラブックス』(玄光社)、『本を贈る』(三輪舎)がある。