ーー元々、冒険研究所として人が集えるような場作りを求めた。しかし、事務所だと人が集う理由としては足りない。もっと不特定多数の人が、自由に出入りできるようにしたいという想い。休校措置で出会った子供たちが、この街のどこで文化や本に触れるのだろうかという疑問。冒険と読書の共通性。それらいくつかの糸が絡まったその結束点に、ある日「書店」というキーワードが立ち上がってきた。
二〇二一年一月三〇日。私は「そうだ、書店をやろう」と突然閃いたーー
本屋を運営していると、そう思っていても思っていなくても、「本屋とはこういうものだ」という概念にとらわれることがある。とらわれたところで本質へと向かうことができるかというとそうでもなくて、日々の業務に追われてしまったり、目先の売上にこだわってしまったりで、道草を食ってばかりいる。本書の原稿を読んだとき、これが冒険家だと思った。目標への推進力が桁違いである。理想を追い求める激しい情熱と同時に、客観的な視座から現在地と目標への距離を分析できる冷静さもある。本屋を本質的に批評しながら実践している書店経営者はなかなかいないと思う。北極冒険家の第一人者にして、2021年に冒険研究所書店を開業した「考える脚」荻田泰永による、書店運営をめぐる思考の実践の軌跡。
構成
- 新たな冒険のはじまり
- 若者たちと北極へ
- 冒険研究所
- コロナウイルス蔓延がもたらしたもの
- 桜ヶ丘駅
- 機能と祈り
- 澁澤さんの言葉
- 桜ヶ丘という土地
- 探検とは何か
- 読書とは何か
- 冒険と読書の同一性
- 主体的な視座の獲得
- 冒険研究所書店開設
- 書店営業の日々
- 自分にとっての幸せ
- 書店における「機能と祈り」
- 祈りの弱点
- 高機能化社会のなかの祈り
- 書店におけるバランスとは
- 冒険研究所書店の周囲を数字で見る
- 新しい「機能」の創出
- とは言え、冒険研究所書店はまだ新参
書誌情報
- 価格 800円+税
- ページ数 48ページ
- 判型 B6小
- 企画・編集 中岡祐介(三輪舎)
- 装丁 安達茉莉子
- 発行日 2022年11月20日
- 発行/印刷製本 生活綴方出版部
著者について
荻田 泰永 Yasunaga Ogita 北極冒険家。2000年よりカナダ北極圏やグリーンランド、北極海で主に単独徒歩 での冒険を実施。これまでに17回の北極行を経験。2018年には日本人初の南極点無 補給単独徒歩到達に成功。2017植村直己冒険賞受賞。これまでに、北極と南極を 1万km以上踏破。2021年5月、神奈川県大和市に「冒険研究所書店」開業。著書に 『考える脚 ―北極冒険家が考える、リスクとカネと歩くこと』(KADOKAWA)、 『PIHOTEK 北極を風と歩く』(井上奈奈との共著、講談社)。