声を上げる
白井明大
いまの世の中は、権力とか経済力とか、
そんな価値でしかものごとをはかれない……
なんて言ったら、言いすぎかもしれないけど
でもそんな雰囲気があったとして
生産性が低いとか、ムダばかりとか、
言いがかりみたいに人間の価値がおとしめられるほど
どんどん大事にされなくなるんじゃないか。
ほんらい人間のためにかけるべき社会のコストが
どんどん削られていくんじゃないか(医療費とか町の維持とか)
そんなときでも、人間の価値を上げる方法は、ある。
それは声を上げること。
たったそれだけでいい。
でもたったそれだけのことを怠ってしまうと、
ただ黙っているだけだと、好きにされてしまいそうで危うい。
わたしも、あなたも、一人ひとりの誰もが、
いま、ここに生きているだけで、かけがえなく大事。
人間をおとしめてはならない。踏みにじってはならない。
それが憲法という一線ではないだろうか。
人間ありきの一線、人権の一線、
その一線に踏みとどまって
一人ひとりの人間を守るのは、声を上げることだ。
わたしの声を。あなたの声を。
日本国憲法とは、この日本という一つの国のあり方を指し示すためのものですが、しかしながら白井さんの詩訳と共にその全文を読むと、そこに書かれた理念は「国」という枠組みを超えて、人ぞれぞれの出自や性差を超え、さらにこの星すらも慈しむような、輝かしい平和の世界を希求する強い決意に溢れていることがわかります。私は絵本の中で、その決意の先に生きるこどもたちを描こうと思いました。暖かな光の中、こどもたちが水や木々に囲まれながら伸びやかに生きる様を。その光景が眩しければ眩しいだけ、あの冷たく陰惨な戦争のこともそこに映るだろうと。もし戦争のない世界をこどもたちが生きるときが来たとして、それでも戦争が“なかった”世界というものはありません。そして同じく、これから決して戦争が“起こらない”世界というものもありません。希望を握り続けること。この前文のように。その大切さが絵を通して少しでも伝われば嬉しいです
阿部海太
絵本『わたしはきめた 日本の憲法 最初の話』ミニ原画展フェアを開催いたします。
『わたしはきめた 日本の憲法 最初の話』(詩訳:白井明大 ほるぷ出版)の中から、絵を手がけた阿部海太さんの原画3点を展示します。このフェアは全国7店舗で同時開催。5/3の憲法記念日に合わせ、遠く離れた各地のお店でひとつの絵本の絵が飾られるという試みです。
急遽決まったこの展示ですが、ちょうど当店の出版部でも政治について語るZINE『私たちにはことばがあった vol.1 政治と私』を出したばかり。双方がリンクして意味の深まる展示となっております。
本屋・生活綴方では5/25(月)まで。阿部さんの原画をぜひ見ていただきたいです。(鈴木)
書籍について
この絵本の言葉は、日本国憲法の前文という、はじめのあいさつを詩に訳したものです。だれもが自由で、健やかで、文化的に生きられる国にしよう、戦争をしない平和な国を築くんだ、という理想や決意、誓いや希望が、前文には満ちあふれています(解説より)。
日本国憲法の前文を、やさしい詩のことばで、一人ひとりの「わたし」に、「あなた」に、伝える絵本。本書に掲載のQRコードから、絵本の朗読を聞くことができます。
著者プロフィール
白井明大(しらい・あけひろ) 詩人。1970年生まれ。詩集に『心を縫う』(詩学社)、『生きようと生きるほうへ』(思潮社、第25回丸山豊記念現代詩賞)など。そのほか『日本の七十二侯を楽しむ』(増補新装版、絵・有賀一広、KADOKAWA)など著書多数。2023年に日本国憲法前文をはじめ、国内外の大切な〈法〉を詩訳した『日本の憲法 最初の話』(KADOKAWA)を刊行。
阿部海太(あべ・かいた) 画家・絵本作家。1986年生まれ。絵本に『みち』(リトルモア)、『みずのこどもたち』(佼成出版社)、『めざめる』(あかね書房)、『きょうもかぜはいろづいて』(岩波書店)などがある。『ぼくがふえをふいたら』(岩波書店)で、第26回日本絵本賞受賞。